1980年代の日本において、高校の偏差値は教育現場だけでなく、社会全体に大きな影響を与える指標として定着しました。バブル経済前夜のこの時代、学歴社会の成熟とともに、偏差値を軸とした進路選択が家庭や学校で本格化したのです。

偏差値システムが教育界に浸透した背景には、高度経済成長期に確立された「良い大学→良い企業」というキャリアパターンの固定化がありました。特に都市部では、有名進学校の合格実績と偏差値ランキングが密接に連動。進学塾の台頭と相まって、中学卒業段階での学校選びが人生の分岐点と捉えられるようになりました。

当時の特徴的な現象として「受験地獄」という言葉が流行語となったように、昼夜を問わない塾通いや過酷な勉強スケジュールが社会問題化。東京や大阪などの大都市圏では、偏差値70を超える進学校を目指す「中受熱」が加速し、教育費の増大が家計を圧迫するケースも少なくありませんでした。

教育関係者の間では「偏差値輪切り教育」への批判も噴出。学校間格差の拡大が指摘される中、文部省（現文部科学省）は1982年に学校群制度の見直しを実施するなど、制度改革に乗り出しました。しかし保護者層の「上位校志向」は収まることなく、私立中高一貫校の人気が急上昇する転換期ともなりました。

この時代の遺産は現代にも続いており、少子化が進んだ現在でも首都圏の難関校競争は熾烈を極めます。一方で、偏差値偏重への反省から多様な評価基準を導入する学校が増加するなど、80年代の受験戦争が現代の教育改革の起点となった側面も見逃せません。