永井 日出子（ながい ひでこ）は、昭和を代表する女優として劇場映画とテレビドラマの両分野で活躍した人物です。1934年東京生まれの彼女は、1950年代後半から芸能界入りし、その端正な顔立ちと深みのある演技力で観客を魅了しました。

特筆すべきは黒澤明監督作品『悪い奴ほどよく眠る』（1960年）での秘書役起用です。官僚組織の腐敗を描く社会派ドラマにおいて、永井は複雑な心理をたたえた表情演技で存在感を示し、新人ながら高い評価を得ました。この出演がきっかけとなり、溝口健二や木下惠介など名匠たちの作品に次々と起用されることになります。

テレビ分野では1963年の連続ドラマ『検事』シリーズでヒロインを務め、視聴者から「理想の職業女性像」と称されるなど、新時代の女性像を体現。1970年代以降は時代劇専門チャンネルで時代考証アドバイザーを務めるなど、芸能活動の幅を広げました。

私生活では俳優の長門勇との結婚・離婚を経て、1985年に芸能界を引退。晩年は絵画制作に没頭し、抽象画作家として個展を開催するなど、多面的な才能を発揮しました。2012年に逝去するまで、常に「表現者」としての姿勢を貫いたその生涯は、昭和芸能史の貴重な一ページとして記憶されています。