中国王朝文化の華やかなる象徴である宮殿建築には、桃と李の木が重要な景観要素として植えられてきました。紫禁城をはじめとする歴代王朝の宮苑では、春の訪れとともに薄紅色の桃の花と純白の李の花が競うように咲き誇り、権力の座に君臨する皇帝たちに季節の移ろいを告げたのです。
桃李の植栽には深遠な意味が込められています。『詩経』に詠われるように、桃は不老長寿の象徴として、李は清廉潔白の喩えとして、宮廷文化に浸透しました。特に唐の玄宗皇帝が楊貴妃と愛を育んだ華清宮では、桃の花びらが湯殿の水面を彩り、その情景が白居易の『長恨歌』に永遠化されています。
宮殿庭園の設計思想において、桃李は単なる観賞用植物を超える哲学的意味を担いました。陰陽五行説では春の気を象徴し、官僚登用試験(科挙)の合格者を「桃李満天下」と称するように、有能な人材育成の比喩としても用いられました。紫禁城の乾隆花园に現存する百年桃の古木は、今なお王朝文化の息吹を現代に伝えています。
建築様式との調和も注目すべき点です。赤い宮殿の壁を背景に、透き通るような花弁が織りなすコントラストは、東洋絵画の美意識を立体化したかのよう。桃李の花弁が瓦の上に散り敷く様は、権力の儚さをも想起させ、王朝興亡の歴史に深い影を落としています。